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東京高等裁判所 平成11年(行コ)162号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の外国人教師(ドイツ語担当)である地位を有することを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し平成一〇年四月一日から本判決の確定に至るまで毎月一七日限り一か月当たり八一万九一三九円の割合による金員を支払え。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件は、被控訴人の設置に係る筑波大学の外国語センターの外国人教師(ドイツ語担当)として平成六年四月一日被控訴人に雇われた控訴人が、その後毎年期間を一年とする雇用契約(以下「本件契約」という。)の更新を繰り返してきたところ、平成九年一一月二〇日、筑波大学長から契約を更新しない旨通知されたことについて、右更新拒絶は無効ないしは権利の濫用であり、被控訴人との間には、依然として雇用契約関係が継続しているとして、被控訴人に対し、被控訴人の外国人教師である地位の確認と平成一〇年四月一日から本判決の確定に至るまで毎月一七日限り一か月当たり八一万九一三九円の割合による賃金(算出根拠は原判決別紙記載のとおり。)の支払を求めている事案であり、原審裁判所が控訴人の請求をいずれも棄却する判決をしたため、これを不服とした控訴人が控訴したものである。

一  前提事実

本件の前提事実(争いのある事実は末尾に証拠を記載し、争いのない事実は特に断らない。)は、原判決書四頁五行目から同一八頁四行目までに記載するところと同じであるから、これを引用する(ただし、「江崎学長」とあるのは「筑波大学長」と改める。)。

二  争点

本件の主要な争点は、(一) 本件契約は、期間の定めのない雇用契約に転化したか(争点1)、(二) 仮に期間の定めのない雇用契約に転化したといえないとしても、本件更新拒絶には、解雇に関する法理が類推適用されるか(争点2)、(三) 本件更新拒絶は、期待権の侵害ないし権利の濫用に当たり、無効か(争点3)、である。

三  双方の主張

1  争点1(本件契約と期間の定めのない雇用契約への転化の有無)について

(一) 控訴人

本件契約の期間は、筑波大学長が控訴人との間で締結した雇用契約の期間である一年ではなく、招へい期間及び雇用更新期間として筑波大学長が控訴人に約束した二年であり、これは、「雇用契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、一年を超える期間について締結してはならない。」と定めた労働基準法(以下「労基法」という。)一四条に違反し、同法一三条により一年を超える部分は無効となり、期間は一年に短縮される。そして、本件のように、短縮された一年の契約期間が、一年経過後も継続している場合には、民法六二九条一項により期間の定めのない契約として存続しているというべきである。

仮にそのようにはいえないとしても、筑波大学に勤務する外国人教師の雇用契約が期間付契約に限られていることは、労基法三条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に該当する。そして、そのような差別をもたらす期間付きの雇用契約は、民法九〇条の公序良俗に違反して無効であり、労基法九三条、労働組合法一六条の類推適用により、期間の定めのない契約になっているというべきである。

そして、本件更新拒絶は、実質的には解雇に当たるところ、本件解雇は、後記2(一)記載のとおり、誤解と偏見に基づくものであり、しかも病気による差別を理由としたものであるから、無効である。

(二) 被控訴人

争う。本件契約は、一年ごとの契約が更新されてきたものであり、期間の定めのない契約として存在したものではない。控訴人は、本件契約に労基法一四条、三条違反の事実が存在すると主張するが、そのようなことはない。

2  争点2(本件更新拒絶に解雇に関する法理が類推適用されるか)について

(一) 控訴人

仮に本件契約が期間の定めのないものとなっておらず、期間の定めのある契約が繰り返されたものであるとしても、最高裁昭和四九年七月二二日第一小法廷判決(民集二八巻五号九二七頁)は、このような雇用契約においても、一定の場合、解雇に関する法理が類推適用されるとしているところ、本件契約には、この最高裁判例のいうような事情が存在するから、解雇に関する法理が類推適用される。

そして、被控訴人のした本件更新拒絶は、以下のとおり、合理的な理由によるものではないから、解雇権の濫用の法理に照らし、無効である。すなわち、控訴人がり患している白血病は再発したものではなく、また、予後も順調なものであるから、職務の遂行には何らの支障もない。しかるに、筑波大学長は、控訴人が再発した白血病にり患しており、そのような健康状態では外国人教師としての勤務に不安があるとして本件通知をしたが、これは誤解と偏見に基づくものであり、病気による差別であるから、無効である。

(二) 被控訴人

争う。外国人教師は、一般職又は特別職のいずれにも属さない公務員であり、国家公務員法(以下「国公法」という。)二条七項を根拠として締結されるところの雇用契約により公務に従事することがその職務内容となっており、国公法一六条一項及び二項に基づく人事院規則及びこれを受けた各種通知による種々の公法的規制を受けて、この種の契約が締結できる場合が限定されている。また、その勤務条件は明定され、通常の国家公務員に準じて俸給表等が定められており、契約書の書式が示され、雇用期間が明示されている。このような事情にかんがみると、本件契約には、特段の事情のない限り、解雇権濫用の法理などの私法法規が類推適用される余地はないと解される。そして、本件においては、このような特段の事情は存在しない。このように、筑波大学長が控訴人との間で締結した雇用契約に解雇権の濫用法理は類推適用されないのであり、控訴人の主張はその前提を欠いているから、失当である。

3  争点3(期待権侵害ないし更新拒絶権の濫用の有無)について

(一) 控訴人

本件の外国人教師の場合のように、特段の理由がない限り、雇用契約が更新されるという場合には、被用者は期間満了時も期間満了後も引続き雇用されることを合理的に期待し得るものであるところ、前記のとおり、本件通知は、右のような期待権を侵害する誤解や偏見に基づく差別的な意思表示であって、信義則上許されず無効である。

仮にそうでないとしても、本件通知は病気を理由とし、誤解と偏見に基づく差別的な取扱いによるものであるから、更新拒絶権の濫用に当たる。

(二) 被控訴人

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件契約と期間の定めのない雇用契約への転化の有無)について

1  外国人教師の法的地位

(一) 国公法二条六項は、「政府は、一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払ってはならない。」と規定して、一般職又は特別職以外の国家公務員を置かない建前を採っている。ところが、同条七項は、「前項の規定は、政府又はその機関と外国人の間に、個人的基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。」と規定して、その例外を置いている。つまり、同法は、外国人に限って、一般職、特別職以外の勤務者として雇用する途を認めているわけである。これは、外国人の官職への任用も不可能ではないものの、一般職の職員として採用した場合、日本社会の人事風土を前提とした給与制度、休暇制度等が一律に適用される結果、必要な人材を確保できないおそれがあるため、弾力的に雇用条件等を設定できるよう、契約による雇用制度が導入されているのである(鹿兒島重治ほか編・逐条国家公務員法(一九八八年)七〇頁参照)。ただし、人事院規則一-七(政府又はその機関と外国人との間の勤務の契約)第二項は、このような例外を広く認めることは適当でないとの観点から、「本項の契約は、当該職の職務がその資格要件に適合する者を日本の国籍を有する者の中から得ることがきわめて困難もしくは不可能な性質のものと認められる場合、または当該職に充てられる者に必要な資格要件がそれに適合する者を日本の国籍を有する者の中から得ることがきわめて困難もしくは不可能な特殊かつ異例の性質のものと認められる場合にかぎり、政府またはその機関と日本の国籍を有しない者との間において締結することができる。」と規定して、右のような外国人との勤務の契約を認める要件を限定している。

(二) このような外国人の雇用について、文部省関係では、国立学校設置法施行規則三〇条の三(勤務の契約による外国人の教員)が、国立大学の学長は、国公法二条七項に規定する勤務の契約により、外国人を教授又は研究に従事させることができることとし、その実施に必要な事項については、別に文部大臣が定めることとする旨規定している。そして、これを受けて、「外国人教師の取り扱いについて」(昭和四四・四・一六文大庶第二五一号)と題する各国立大学長あての文部事務次官通知が発せられている。これによれば、「外国人教師」は、国立大学等において外国語科目または専門教育科目を担当させるにたる高度の専門的学識又は技能を有する外国人で、国立大学等が常勤の教師として雇用する者をいうとされ(一項)、外国人教師には、給与として、俸給、調整手当、期末手当及び勤勉手当、通勤手当、寒冷地手当が与えられるものとされ(二項)、雇用期間は一年を超えないものとするが、必要に応じて更新することができ、外国人教師を国外から招へいする場合の招へい期間は帰国旅費の支給の関係から原則として二年とするものとされている(三項)。

なお、教育、学術の国際化の進展とともに、有能な外国人を国公立大学の正規の教授等として積極的に任用すべきであるとの要請が高まり、国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法(昭和五七・九・一法律第八九号)が制定されるに至ったが、同法四条は、「第二条第一項及び前条第一項の規定は、国立の大学及び同項に規定する機関において国家公務員法第二条第七項に規定する勤務の契約により教育又は研究に従事する外国人を採用することをさまたげるものではない。」と規定して、同法の制定後も、従来から行われている外国人教師の制度が存続し得るものであることを明らかにしている。

(三) 筑波大学における外国人教師の選考は、原則として、専任教員の選考手続に準じて行うものとされており、最終的には、人事委員会の議を経て学長が雇用契約を行っている。また、雇用更新に際しては、人事委員会総会の下に設置された外国人教師雇用更新資格審査委員会において、本人の教育・研究上の実績を十分検討し、審査し、その結果に基づいて、人事委員会が審議し、その決定を経て更新することになっている(乙四)。控訴人について、筑波大学長は、平成六年三月二九日、招へい期間及び更新期間を平成六年四月一日から平成八年三月三一日までの二年間としたうえ、期間を一年とする雇用契約を締結し、一年後これを更新した(乙九、一〇、弁論の全趣旨)。その後、筑波大学長は、平成八年三月、招へい期間を平成八年四月一日から平成一〇年三月三一日までの二年間としたうえ、雇用契約を更新し、直近の雇用契約は、平成九年三月二八日に締結され、期間が平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までとなっていた(甲一の一、弁論の全趣旨)。

2  ところで、控訴人のような外国人教師は、一般職の国家公務員ではないことから、国公法の適用を受けるものではないが、政府又はその機関との雇用契約の締結により、公務に従事することになるのであるから、そのような契約により公務に従事する者は、国家公務員に当たると解される。そして、そのような契約は、一応公法上の契約に当たると解されるが、実質的には、対等の私人間で行われる労働契約と大差がないものであるから、一般の労働契約と同様、労基法一四条、三条の適用を受けるものと解するのが相当である。

そこで、本件契約に、労基法一四条、三条違反があるかどうかについて、以下検討する。

(一) 労基法一四条違反の有無について

控訴人は、本件契約の期間は、筑波大学長が控訴人との間で締結した雇用契約の期間である一年ではなく、招へい期間及び雇用更新期間として、筑波大学長が控訴人に約束した二年であるから、本件契約は、労基法一四条に違反すると主張する。

しかし、労基法一四条が、「雇用契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は、一年を超える期間について締結してはならない」と定めている趣旨は、労働者を長期にわたって不当に拘束することを防止することにあるから、一年を超える期間を定めた雇用契約であっても、一年経過後の期間が身分保障期間であることが明らかな場合には、同条に違反するものではない。本件の場合、招へい期間及び雇用更新期間は二年とされているが、雇用契約は一年ごとに締結され、控訴人は、一年を経過した時点で退職の自由が保障されているのであるから、本件契約は、労基法一四条に違反するものではない。控訴人の右主張は採用することができない。

(二) 労基法三条違反の有無について

控訴人は、外国人教師にのみ期間付雇用契約という契約形態をとることは、労基法三条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に該当すると主張する。

しかし、外国人教師は、「当該職の職務がその資格要件に適合する者を日本の国籍を有する者の中から得ることがきわめて困難若しくは不可能な性質のものと認められる場合、又は当該職に充てられる者に必要な資格要件がそれに適合する者を日本の国籍を有する者の中から得ることがきわめて困難若しくは不可能な特殊且つ異例の性質のものと認められる場合」に限り雇用されるものであるから(人事院規則一-七第二項)、その雇用に当たって、これを期間付きのものとし、一定の期間ごとに、教育計画の見直しと、研究実績等を挙げているかどうかを判断し、雇用(更新)の必要性等を判断することとしているのは、やむを得ないことであり、合理的な理由があるものというべきである。外国人教師について、期間付雇用契約という契約形態をとったことが、労基法三条の禁止する国籍による差別に該当する旨をいう控訴人の右主張も採用することができない。

3  そうすると、本件契約が労基法一四条、三条に違反していることを前提として、これが期間の定めのないものに転化しているとし、本件更新拒絶は解雇に当たり、無効であるとする控訴人の主張は、前提を欠き、理由がない。

三  争点2(更新拒絶と解雇権の濫用法理の類推適用の有無)について

控訴人は、本件更新拒絶には、解雇権の濫用法理の類推適用があると主張する。

しかし、前記のとおり、国立大学等に勤務する外国人教師は、一般職又は特別職のいずれにも属さない国家公務員であり、国公法二条七項を根拠として締結される雇用契約により公務に従事することがその職務内容となっているものである。そして、この種契約の締結については、国公法一六条一、二項に基づく人事院規則及びこれを受けた各種通知が定められており、勤務条件や雇用期間が明定されていることにかんがみれば、特段の事情のない限り、これに解雇権濫用の法理が類推適用される余地はないというべきである。そこで、これを本件についてみるに、本件契約は、単年度ごとの契約が三回更新されたにすぎないうえ、そのいずれの場合も雇用期間を一年とする契約書が作成され、二年ごとの雇用更新の際には資格審査が行われ、大学の人事委員会の決定を経て雇用契約が締結されていること、しかもその雇用契約は一年とされ、これを超える期間又は期間の定めのない雇用契約を締結することは、当初から予定されていないこと等の事情に照らせば、本件契約は、それが当然更新される程度にまで常態化しているとはいえず、前記特段の事情は認められないといわなければならない。したがって、本件契約に解雇権濫用の法理を類推適用することはできず、この点に関する控訴人の主張も採用することができない。

四  争点3(期待権侵害ないし更新拒絶権の濫用の有無)について

当裁判所も、本件更新拒絶は、期待権の侵害には当たらず、また、権利の濫用にも当たらないものと判断する。その理由は、原判決書六二頁八行目から同六三頁末行までに記載するところと同旨であるから、これを引用する(ただし、「江崎学長」とあるのは「筑波大学長」と改める。)。

五  よって、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却を免れず、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 近藤壽邦 裁判官 川口代志子)

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